2012年12月5日水曜日

『成功する会社が必ずやっているリスク管理』上野良治 堀尚弘

『成功する会社が必ずやっているリスク管理』上野良治 堀尚弘
(レビュアー:エンジニア 福岡)

どの企業でも行なっているであろう「リスク管理」。しかし実際は本当にリスク管理を行なっているのでしょうか。
ランチェスターの書籍紹介チームは4回に渡り、リスクマネジメントについての本を読み紹介し、これからの対策について考えていきます。


今回はリスクマネジメントの書籍の2冊目、「成功する会社が必ずやっているリスク管理」を紹介します。
私は今までリスクマネジメントとは、企業のトップの人達が考えていくもので、自分とはあまり関係のないものだと思っていました。
しかしこの書籍で紹介される様々なリスク、それはセクハラや駐車違反、社員の意識の持ち方など身近なリスクが沢山ありました。
もちろん経営者ならではの例などもありましたが、私が印象に残ったのは社員の育て方に繋がる内容が多かったことです。

リスク管理で大事なことの一つとして「最悪を想定すること」とありました。
まさかそうはならない、などの油断はトラブルの連鎖に繋がることになります。なので常に最悪の事態を想定し、それに対する対応を考えておく。
そのためには上に立つ人はもちろん、その下の社員もその意識を持たなければなりません。
私がそうであったように、何かのきっかけがないと非管理職はリスクを意識することができません。そのきっかけを生む様々な例が、実例と共に紹介されています。

報告に関する思い込み、自分の仕事の範囲の思い込みなど、一人ひとりの意識の持ち方によりリスクが増えていく。
そんな小さなことの積み重ねで実際に業績が左右することを知りました。
自分でもリスクマネジメントが出来る、そう考えが変わった一冊です。

2012年11月26日月曜日

『ビジョナリー・カンパニー4 自分の意志で偉大になる』ジム・コリンズ モートン・ハンセン

『ビジョナリー・カンパニー4 自分の意志で偉大になる』ジム・コリンズ モートン・ハンセン
(レビュアー:マーケター/デザイナー 酒井)

原発の諸事に象徴されるように、
「想定外」「失敗」というのは非常に怖いもので、確率としては低くても、
一度起こってしまえば取り返しのつかないインパクトを持っています。

私個人としてはもちろん、
ランチェスターとしても、失敗をして、お客様にご迷惑をおかけしてしまうことが残念ながらあります。
この「失敗を仕組みとしていかになくすか」ということをテーマにして、
ランチェスター書籍紹介チームはこれから4回に渡ってリスクマネジメントの本を集中的に読み、
ご紹介し、最終的には具体的な対策を考えていきます。


第1回目に取り上げるのは「ビジョナリー・カンパニー4」です。
このシリーズでは様々な切り口から「優れた企業」と「すごく優れた企業」の行動特性を比較し、
「すごく優れた企業」を目指すためのエッセンスを抽出していきます。

本書の焦点は「いかに不運を乗り越えて継続的な成長を遂げるか」というところにあります。
どんな企業でも幸運に恵まれたり不運に襲われたりすることがあります。
企業努力とは関係のない、コントロールできない要素が世の中にたくさんあります。
このコントロールできない幸運を最大限に活かし、不運を最小限の被害にとどめるには、「咄嗟の対応よりも普段からの備えがものを言う」というのが本書の主張です。

本書では冒険家の実例を多数引用しています。
例えば同時に南極の制覇を目指した2人の冒険家を引用します。
片方が予定よりも行程を大幅に遅延させた上にメンバー全員が帰路で亡くなってしまったのに対して、
片方はできる限りの準備をして、実際に冒険が始まってからは気候が良くても悪くても一定のペースを保ち、予定通りのスケジュールで制覇して全員生還した、という話です。
「できる限りの準備」には北極圏のエスキモーに弟子入りして生活の知恵を学んだり、イルカをなまで食べられるかを試したりといった極端な行動も含まれています。

このエピソードに象徴されるように、できる限りの準備をすることによって、また成長速度を一定に保つことによって、企業は不測の自体にも大きく左右されることなく前進を続けることができます。

例えば社内でインフルエンザが流行したとしても、あらかじめスケジュールにバッファを持ち、普段から外部パートナーと懇意にして意思疎通をスムーズにしておけば、納期に影響を与えることなく作業を進めることができる可能性が劇的に高まります。
企業としても、仮に日本国際がデフォルトして一時的に日本の景気が壊滅的になったとしても、十分な内部留保があればその間に優秀な人材を獲得したり、新しいサービスの開発を行ったりと、建設的な経済活動を続けることができます。


備えること。
余裕を持つこと。
無知や見過ごしを原因とする失敗をなくすように努めることは当然ですが、
不測の事態を原因とする失敗を最小限にとどめる体制を意識することも、非常に大切です。

2012年11月7日水曜日

『Linuxカーネル2.6解読室』高橋浩和 小田逸郎 山幡為佐久

ソフトバンククリエイティブ
発売日:2006-11-18

『Linuxカーネル2.6解読室』高橋浩和 小田逸郎 山幡為佐久
(レビュアー:エンジニア 久保田)

この本は書籍名にある通りLinuxカーネルのバージョン2.6について解説してくれている書籍です。

OSもアプリケーションと同じでプログラミングで動作しています。
このOSの基本機能を実装しているソフトウェアがカーネルです。
カーネルがどのような動作をしているかを知ることによって、
メモリ資源をより効率的に管理したり、万一バグが発生した際にも適切に対処できるようになります。

Linuxカーネルのコードは当時ですら500万行あったようです。
しかも現在は1500万行を超えたとか。
そんな量のコードを前にしたら読む前にビビって
「やっぱやめとこう」となりがちですが、この本ならたかだか500ページ。
ソースそのものにあたるよりも格段にとっつきやすいのではないでしょうか。
解説してくれているバージョンに関しては2.6と若干古い気はしますが、
2.6までをきちっとこの本で理解することには意味があるように思います。


本の構成としては、細かな実装の前に仕様の確認の章があり、
知識が若干不安でもなんとか読める形でまとめてくれています。

自分自身、カーネルのソースにふれるのは初めてで、
この本で抜粋されたソースを読むのだけでも大変でした。
しかし、大切な部分には一行単位で丁寧に解説をつけてくれてあり、
頑張って読み進めることでわかった気にさせてくれます。

特に構造体のメンバを表にまとめてくれていたり、
ソースコードのフロー図を書いて構造をわかりやすくしてくれていたりと
全体の構造を俯瞰するためのヒントが満載です。

まだまだ理解したとは言い難いですが、
個人的に意味があったことは全体を読み切ることで、
なんとなくカーネルが怖く無くなった気がしていることです。
この本を傍らにカーネルソースに挑戦してみよう!
という気にさせてくれます。

そんな意味でもオススメの一冊です。

2012年10月25日木曜日

『エクスペリエンス ポイント』 長谷川恭久

『エクスペリエンス ポイント』 長谷川恭久
(レビュアー:デザイナー 伊波)

この書籍は、UX(ユーザーエクスペリエンス)について2008年から2012年の間に筆者がサイトで取り上げたコラムをまとめたものです。
UXとは、ユーザーが製品やシステムなどを使ったときに得られる経験・満足感などを指す用語で、インタラクションデザイン全般に適用される概念になっています。

内容はサイトの記事からセレクトされているものが多く、空いた時間で少しずつ読み進めることができます。
また電子書籍のみで販売されており、スマートフォンでブログやニュースをチェックするような感覚で気軽に読める点、参考文献へのリンクをすぐに参照できる点が魅力的でした。

私はUXについての知識は豊富とは言えません。書籍やインターネットで調べてユーザーの体験であることは知っていましたが、UXについての深い理解はなくデザインの要素のひとつという印象でした。
しかし、一通り読んで考えが変わりました。現在はUXという土台の上に、設計・ビジュアルデザインなどの要素が乗っていると考えています。UXが包括する分野はとても多く、それぞれがUXを起点に考えることができます。

この書籍ではSEOとUXの融合についても書かれています。
SEOとUXというとあまり関連性がないイメージがありましたが、Webサイトにおけるゴールは何か、なぜWebサイトが必要なのかなど、SEOやUXについて考える際の質問は共通していました。
UXはデザインに関するものであるというイメージが強く、よくUIやビジュアルのデザインと混同されて、「デザイナーがやること」というイメージになりがちです。ですが、UXはデザインのアウトプットをする人だけに関わる物ではありません。そこに至るまでの理由を考えるということはデザイナーでもエンジニアでも誰でもできることですし、さまざまな視点からUXについて考えることでさらに良い物ができると思います。
分野的に関係がないと思っている方もぜひ一度、UXについて考えて頂きたいです。

2012年10月10日水曜日

『ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち』著:Paul Graham/訳:川合史朗

『ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち』著:Paul Graham/訳:川合史朗
(レビュアー:エンジニア 福岡)

難しそうな題名ですが『本書はハッカーの世界へのガイドブックだ』と、書かれているようにプログラミングの世界をまったく知らなくても、読み進めていくことができる一冊です。
書籍内でも書かれていますが、ハッカーというと一般的にはコンピュータに侵入する人のことを言いますが、ここでは優れたプログラマのことを指します。
一般的にそう認識されているため、誤解を招くことも著者は承知の上で、あえてこの題名にしたと言っています。
そんなところからも分かりますが、著者は少し癖のある人のようで内容も自分の思う所を自由に書いていてとても面白いです。

例えば「どうしてオタクはもてないか」という章でオタクについて語っていたり、「富の創りかた」という章ではどのようにして裕福になるか、など一見コンピュータとは関係のない話をしているようにも思えます。
しかし、なぜオタクと呼ばれるのか、それは人と上手く関わることを学ぶよりも熱中しているものについて学んでいき、人とのコミュニケーションは下手でもコンピュータについて誰よりも知識を持っていく、そんな話が書かれています。
そしてハッカー、つまり優れたプログラマがどのようにして生まれるかなどがわかっていきます。

そしてタイトルにある”画家”は、ロジックを大事にして作っていくプログラマと、感覚やセンスで絵を書いていく画家というのは正反対のように思えるけど、それは間違いだという事が説明されています。
絵が下手な私には最初ピンときませんでしたが、読んでみるとプログラムを組むときも絵を書くときも、まず全体を見据えていたり、途中で修正を可能にすることなど、確かに本質的なところで同じことがたくさんあると感じました。

冒頭で著者も述べていますが、各章に繋がりはなく、順番も気にせず好きなように読むことができるので、少し空いた時間にも読みやすい一冊だと思います。
またハッカーの世界へのガイドブックと言っても、ある一人プログラマの考えとして読むと、自分がプログラマとしてどうありたいかなど改めて考えさせられます。

2012年9月26日水曜日

『デザインの生態学 –新しいデザインの教科書』後藤武 佐々木正人 深澤直人

『デザインの生態学 –新しいデザインの教科書』後藤武 佐々木正人 深澤直人
(レビュアー:マーケター/デザイナー 酒井)

クリエイティブには日々移り変わる “流行り/廃りのレイヤー”と、100年単位で変わらない“思想のレイヤー”があります。
ウェブデザインで言うと、ここ最近は“Pinterest的”な微妙なグレーの明度差・シャドー・グリッドレイアウトで情報のグルーピングを見せるデザインが流行っていますが、あまりにも流行っているので3年後に同様のデザインを見たら「古い」と感じるかもしれません。
反面で“その時々のユーザーの慣習(世の中に普及しているインターフェイスの標準)を考慮する”という根本的な考え方は普遍的なものであるため、3年後も間違いなく通用します。
本書はデザイナーやエンジニアやマーケターに関わらず“思想のレイヤー”での成長を望むすべてのクリエイターにおすすめする一冊です。

“まったく異なるデザイン分野”の第一線に立つ3人の対談が、とても魅力的なコンテンツになっています。
著者のプロフィールを簡単にまとめると、下記のようになります。

・『石の美術館』『空の洞窟』など洗練された建築物を次々と生み出している建築家の後藤武
・認知科学の第一人者であり東京大学大学院教授を務める佐々木正人
・『無印良品』『±0』といった一流ブランドのデザインを手がけるプロダクトデザイナーの深澤直人

分野が違っていても、デザインのことを考え続けた3人の考え方には相通ずるものがあり、対談を通して相互に共感を生みながら『デザイン』を深く掘り下げていきます。

例えばデザインでは「はまる」感覚が大切だという点で3人の意見は一致します。
バス停のすぐ近くに背の低いフェンスがあるとします。そのフェンスの中央部分が弓なりにへこんでいます。この構図を見ただけで、たくさんのバスを待つ乗客がそのフェンスをベンチのようにして腰掛けてきた様子が目に浮かんできます。
こういった「はまる」感覚がデザインには求められます。
2000年に無印良品が発売して当時デザイン界で話題となった「壁掛け式CDプレーヤー(http://www.muji.net/lab/mujiarchive/101111.html)」は換気扇のようなフォルムをしています。「ひもを引っ張れば動作する」ことが自明なだけではなく、ユーザーはほとんど無意識のレベルでその動作を誘引されます。これがデザインにおける「はまる」感覚の再現です。

副題に「新しいデザインの教科書」とありますが、上記の一例からも分かる通り、一般的なノウハウ本のように“明日から取り入れられるような手法”が散りばめられているわけではありません。
純文学を読むときのように、読み手は洗練された概念を何となくインプットしていきます。
何となくインプットした概念が、その成分や正体がよく分からないまま、砂糖が水に撹拌するときのように、目に見えないかたちで読み手に浸透します。

冒頭に記した通り、日進月歩のクリエイティブを学ぶことも大切ですが、そんな合間に本書を手に取って、100年先も通用する“思想のレイヤー”を育んでみてはいかがでしょうか。

2012年9月12日水曜日

『Clean Coder』Robert C. Martin

『Clean Coder』Robert C. Martin (著), 角征典 (翻訳)
(レビュアー:エンジニア 久保田)
「プロフェッショナルプログラマへの道」とサブタイトルにもある通り、
この本はプロになるための意識や心構え、習慣を教えてくれます。

第1章ではプログラマの「責任」について記述されています。
顧客や上司、仕様がどうであれ、
書かれたコードの責任はその直接の書き手にあります。
この責任を全うするにはどうしたら良いでしょう。
本書では残りの章を通してその指針を示してくれます。

特に第6章「練習」ではソフトウェア開発にも練習があるのか
と衝撃を受けると共に深く納得させられる内容でした。
僕ら開発者は仕事中が本番で、本番でうまくやるには
当然練習が必要なんだなと。

その他にも、わずか200ページ足らずの本書には
プロになるためのエッセンスが凝縮されています。
開発者には必読の書ではないでしょうか。

2012年8月28日火曜日

『ニコニコ動画が未来をつくる ドワンゴ物語』 佐々木俊尚

『ニコニコ動画が未来をつくる ドワンゴ物語』 佐々木俊尚
(レビュアー:デザイナー 伊波)

主題に「ニコニコ動画」とありますが、副題の「ドワンゴ物語」の方が内容としては近いです。現在ニコニコ動画を運営しているドワンゴという会社の成長を追っています。
新しいゲームが発売されると会社を休んでしまう程のゲーム好きや、天才プログラマーなど、ドワンゴに関わっている多種多様な人々、また時代背景も描かれていて、本当にノンフィクションなのか疑う程にドラマチックな物語です。

私がパソコンやインターネットに触れ始めたのは「2000年問題」などが話題になる少し前で、技術的な面もあまり詳しくありません。
なので、前半部分のパソコン通信時代の話はよく分からないし、理解できない専門用語も多くありましたが、それでも当時その技術に触れていた人々が感じていたであろう臨場感が伝わってきました。

ニコニコ動画でドワンゴという社名を知り、着メロをやっている会社だということはそれとなく知っていましたが、読み進めると「あれがドワンゴだったのか!」と驚き、それができるまでの過程にまた驚きました。

ニコニコ動画については後半の方にしか出てきませんし、「物語」としては切れ味の悪い終わり方をする本なのかもしれません。
しかし、ニコニコ動画、ドワンゴ、それを取り巻く環境、どれもまだ動き続けているノンフィクションの話だということを最後にようやく思い出す程に、創作された小説のようなドキュメンタリーになっています。

私はこの本を読むと、新しい技術や文化に触れたときのわくわくした感覚や、「こういうおもしろいものを作りたい」とクリエイターを目指し始めた頃を思い出します。
モチベーションが下がってしまったとき、また読み返したい1冊です。

2012年8月15日水曜日

『プロになるためのWeb技術入門』小森裕介

『プロになるためのWeb技術入門』小森裕介
(レビュアー:エンジニア 福岡)

ちょっとプログラミングができる人ならば最近は根本的な仕組みを知らなくても、Webアプリケーションの開発が出来きちゃいますよね。
でも根底のWeb知識がないと、トラブルシューティングやセキュリティ対策に不備が出てきてしまうこともあります。
この書籍はそんな不備をなくすために必要なWebの背景をとても理解しやすく説明してくれています。

この本の良いところは、説明されてもいまいちピンとこないWebが動く仕組みをとても分かりやすく記述されているところだと思います。
何故分かりやすいのかというと、その分かりにくいデジタルな部分をアナログな例で説明しているところです。
例えばプロトコルを狼煙としたり、TCP/IPを郵便配達と例えたりしています。Webは目に見えない動きが多い為、身近なもので例えられることでスッと自分の中に吸収されました。

また、技術書ではどうしても堅い文章が多いですが、この書籍は全体的に文章も柔らかいので、非常に読み進めやすいと思います。
章もわりと細かく分かれているので、空いた時間の合間にぜひ読んで見てほしい1冊です。

2012年7月31日火曜日

『iPhoneアプリ設計の極意 –思わずタップしたくなるアプリのデザイン』Josh Clark

『iPhoneアプリ設計の極意 –思わずタップしたくなるアプリのデザイン』Josh Clark
(レビュアー:マーケッター/デザイナー 酒井)

PCサイトをデザインした経験が豊富なデザイナーでも、
スマートフォンの特性を知らないことには、まともなスマホアプリのデザインはできないでしょう。
「PCとスマホのデザインの違い」と言うとスクリーンの大きさくらいだと錯覚してしまいがちですが、
実際にはテニスと卓球くらいに違います。
何と言ってもスマホの入力デバイスは“マウスではなく指”です。

この本は「UIについて」「アイコンについて」「アラートについて」「他のアプリとの連携について」といった表立ったものから、「スプラッシュ画面のあるべき姿」「フールプルーフの設計」といった細部まで、徹底的にスマホアプリのデザインを解剖したものです。
かつ、あくまでも私の感覚的な話ではありますが、ことごとく的確です。
B5判で320ページというボリュームからも、著者の熱意が伝わってきます。

アマゾンなどで探してみていただけるとすぐに分かるのですが、
そもそもスマホのデザインについて書かれた専門の本はなぜかほとんど発行されていません。
「開発とデザイン両方について書かれた本」や「PCとスマホ両方のデザインについて書かれた本」はありますが、それでは情報量がまったく足りないことが、この本を読むと分かると思います。

スマホのデザインについて書かれた数少ない専門の本であるのと同時に、スマホのデザインと真っ向から向き合っている良書です。
デザイナーに限らず、ディレクター・企業のウェブ担当者など、スマホのデザインに関わりのあるすべての人にオススメします。

2012年7月25日水曜日

『WEB+DB Press Vol.68』

『WEB+DB PRESS vol.68 2012』
(レビュアー:エンジニア 福岡)

この号は4月からの新卒を対象とした「新人応援号」というコンセプトで、技術方面に弱い人でも理解できる特集があるので、技術の勉強を始めるにはうってつけの一冊です。
内容は「Web技術まるごと整理」「Node.js実戦入門」「はじめてのゲームAI」の3つに大きく分けられます。

「Web技術まるごと整理」では、Web技術の流れが如何に早く進化していき現在の状態になったのか、短時間で理解することが出来ます。またHTMLやサーバの仕組みについても完結に基礎から書かれており、静的・動的とは何か、サーバの動きなどWeb全体の流れを知ることが出来ます。
「Node.js実践入門」は、インストールの手順から書かれており、自分で実際に動かしながら進めることができ、読むだけではなく実際に手を動かすことにより理解を深めることが出来ると思います。
「はじめてのゲームAI」ではゲームの作り方をまったく知らなくても分かりやすいように丁寧に解説されており、ゲームを作る際の基本的な考え方が載っています。分かりやすく書かれているため自分も作ってみたいという意欲に駆られました。

また各コラムも非常に興味深く、様々な立場や経験をしたエンジニアの人々が自分の持っている情報を公開しています。内容ももちろん面白いのですが、このようにしてそれぞれの情報が共有されることにより、読んだ側も様々な視点からモノ作りに関して考えを持てるということが、重要に感じました。
参考書と違い、様々な執筆者が書いて一つの書籍になっているのも魅力の一つだと思います。

2012年7月4日水曜日

『ウェブデザインのつくり方、インターフェイスデザインの考え方。』矢野りん

『ウェブデザインのつくり方、インターフェイスデザインの考え方。』矢野りん
(レビュアー:デザイナー 伊波)

Web・スマートフォン・電子書籍などのデザインに必要な技法や考え方を解説している本です。

「UX」「整列」「ホワイトスペース」といったトピックスごとに4ページ~5ページ程度でまとめられています。それぞれ解説・具体例・コラムなどから構成されています。
ちょっとした時間で技法ごとに少しずつ読み進めることができ、とても読みやすい本だと感じました。
関心があるところから先に読んだり、辞書的な使い方もできると思います。

私は技術書のような本を読むことがとても苦手で、実践しながら読み進めないとなかなか内容を把握できません。
ですが、この本はビジュアルを効果的に用いた説明や実際のWebサイトの具体例があり、
本を読むだけで使用する場面を想像し、理解を深めることができました。

特に「なぜそのデザイン技法を用いるのか」という部分についての解説が非常に分かりやすいです。
例えば「ホワイトスペース」の説明で、「余白には視線を集中させるという機能がある」という一文があります。余白が「何もない部分」ではないことはよく言われることですが、どのような機能があるのか、どのように用いると効果的なのかという重要な部分はこの一文を読むまで理解していませんでした。

この本を読むことによって、「なぜこうなのか」をしっかり説明できるデザインを制作することができるようになると思います。

2012年6月25日月曜日

『スティーブ・ジョブズ』ウォルター・アイザックソン

【オススメ書籍紹介】『スティーブ・ジョブズ』ウォルター・アイザックソン
(レビュアー:マーケッター/デザイナー 酒井)

この本はテクノロジーの近代史としても、リーダーシップ論としても、マーケティング論としても読むことができますが、そのすべての根幹となっているのが“決して妥協しないジョブズ氏の姿勢”です。

2011年の暮れに発売され、日本国内だけでも10日で計100万部以上を売り上げた大ベストセラー。
アップルを立ち上げ、ピクサーを立ち上げ、世の中に次々と革新をもたらした「故スティーブ・ジョブズ氏」公認の伝記です。
気になってはいるものの、その文章量の多さや価格から「まだ手に取っていない」という方も多いのではないでしょうか。



例えば、テクノロジー分野には“オープン化”の圧力が強く働いています。
オープンソースやFacebookのオープン化に見られるように、集合知を活用して価値を高めていこうという大きな潮流があります。
分かりやすい例として代表的なのが「ウィキペディア」です。
ウィキペディアは誰もが参加して編集することができる百科事典です。
編集者が増えれば増えるほど情報量が増え、百科事典としての価値を高めていきます。
平たく言うと「みんなで良くしていきましょう」というのがオープン化です。
パソコン部品のモジュール化やISOのような標準化団体なども、同様に「みんなで良くしていきましょう」を支援することを目的としています。


一方でアップルは設立以来、このオープン化に反し続けています。
「徹底的にクローズにすることでユーザー体験をコントロールする」という思想を持っています。
オープン戦略のデメリットは、様々な規格を吸収するために余分が生じることと、様々な機関が関わるためにクオリティを統一できないことです。
アップルはクローズド戦略を取ることで第三者の協力を得ない代わりに、余分を排除し、クオリティを担保しています。
iOSアプリはオープン化されていますが、コンセプトから操作性に至るまで厳しい審査基準を設けることによってそのクオリティをコントロールしています。

クローズド戦略に妥協は許されません。
妥協してクオリティに傷がつけば、クローズドにしている意味がなくなってしまいます。
アップルはこの戦略のもと、iMac・iTunes・iPhoneなど素晴らしいユーザー体験を生み続けて、2011年には時価総額で全米1位にまで上りつめました。
その背景には徹底した妥協の排除があります。

妥協の排除は個人の努力だけで実現するようなものではありません。
従業員に考えられないようなストレスを生みます。
ときには数年かけて進行していた製品開発を白紙に戻すような意思決定がなされ、優秀な従業員の自主退職を誘発します。


どうすれば妥協を排除することができるのか。
それはどういった副作用をもたらすのか。
この本からは「妥協しない」ということの本質を読み取ることができます。

『まつもとゆきひろ コードの未来』まつもと ゆきひろ

【オススメ書籍紹介】『まつもとゆきひろ コードの未来』まつもと ゆきひろ
(レビュアー:エンジニア 久保田)

rubyの生みの親まつもとゆきひろさんが本を出したということで早速買って読んでみました。

知ってはいたけどよくわからなかった話題や、
なんか流行ってんなという話題について、
なぜ流行っているのか、どういうメリットがあるのか
どんなデメリットがあるのか等、総合的に理解できました。


前半部分では過去から現在を振り返り、ムーアの法則にあるように
劇的に変化してきたCPUのクロック数やハードディスク容量を元に
変化が激しすぎて10年後のような遠い未来を予想するのは困難だと断りながら、
最近の潮流が近い将来も続くだろうというエクストリーム予想
を駆使して、近未来の予想をしています。

全体的に技術書というよりは読み物よりな内容で、
ここまでは非技術者の方が読んでも楽しめるかと思います。

後半部分では前半で予想したコードの未来に沿った
今あるHOTなトピックを取り上げてその意味と、
簡単な使い方を紹介してくれています。
(Go/Dart/Rack/MongoDB etc.)


業務では使わない新しい技術のさわりを知れることは
非常に刺激的です。

「コードの未来」を読んで自分の未来を考えてみるのも
良いかもしれませんね。