2012年10月25日木曜日

『エクスペリエンス ポイント』 長谷川恭久

『エクスペリエンス ポイント』 長谷川恭久
(レビュアー:デザイナー 伊波)

この書籍は、UX(ユーザーエクスペリエンス)について2008年から2012年の間に筆者がサイトで取り上げたコラムをまとめたものです。
UXとは、ユーザーが製品やシステムなどを使ったときに得られる経験・満足感などを指す用語で、インタラクションデザイン全般に適用される概念になっています。

内容はサイトの記事からセレクトされているものが多く、空いた時間で少しずつ読み進めることができます。
また電子書籍のみで販売されており、スマートフォンでブログやニュースをチェックするような感覚で気軽に読める点、参考文献へのリンクをすぐに参照できる点が魅力的でした。

私はUXについての知識は豊富とは言えません。書籍やインターネットで調べてユーザーの体験であることは知っていましたが、UXについての深い理解はなくデザインの要素のひとつという印象でした。
しかし、一通り読んで考えが変わりました。現在はUXという土台の上に、設計・ビジュアルデザインなどの要素が乗っていると考えています。UXが包括する分野はとても多く、それぞれがUXを起点に考えることができます。

この書籍ではSEOとUXの融合についても書かれています。
SEOとUXというとあまり関連性がないイメージがありましたが、Webサイトにおけるゴールは何か、なぜWebサイトが必要なのかなど、SEOやUXについて考える際の質問は共通していました。
UXはデザインに関するものであるというイメージが強く、よくUIやビジュアルのデザインと混同されて、「デザイナーがやること」というイメージになりがちです。ですが、UXはデザインのアウトプットをする人だけに関わる物ではありません。そこに至るまでの理由を考えるということはデザイナーでもエンジニアでも誰でもできることですし、さまざまな視点からUXについて考えることでさらに良い物ができると思います。
分野的に関係がないと思っている方もぜひ一度、UXについて考えて頂きたいです。

2012年10月10日水曜日

『ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち』著:Paul Graham/訳:川合史朗

『ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち』著:Paul Graham/訳:川合史朗
(レビュアー:エンジニア 福岡)

難しそうな題名ですが『本書はハッカーの世界へのガイドブックだ』と、書かれているようにプログラミングの世界をまったく知らなくても、読み進めていくことができる一冊です。
書籍内でも書かれていますが、ハッカーというと一般的にはコンピュータに侵入する人のことを言いますが、ここでは優れたプログラマのことを指します。
一般的にそう認識されているため、誤解を招くことも著者は承知の上で、あえてこの題名にしたと言っています。
そんなところからも分かりますが、著者は少し癖のある人のようで内容も自分の思う所を自由に書いていてとても面白いです。

例えば「どうしてオタクはもてないか」という章でオタクについて語っていたり、「富の創りかた」という章ではどのようにして裕福になるか、など一見コンピュータとは関係のない話をしているようにも思えます。
しかし、なぜオタクと呼ばれるのか、それは人と上手く関わることを学ぶよりも熱中しているものについて学んでいき、人とのコミュニケーションは下手でもコンピュータについて誰よりも知識を持っていく、そんな話が書かれています。
そしてハッカー、つまり優れたプログラマがどのようにして生まれるかなどがわかっていきます。

そしてタイトルにある”画家”は、ロジックを大事にして作っていくプログラマと、感覚やセンスで絵を書いていく画家というのは正反対のように思えるけど、それは間違いだという事が説明されています。
絵が下手な私には最初ピンときませんでしたが、読んでみるとプログラムを組むときも絵を書くときも、まず全体を見据えていたり、途中で修正を可能にすることなど、確かに本質的なところで同じことがたくさんあると感じました。

冒頭で著者も述べていますが、各章に繋がりはなく、順番も気にせず好きなように読むことができるので、少し空いた時間にも読みやすい一冊だと思います。
またハッカーの世界へのガイドブックと言っても、ある一人プログラマの考えとして読むと、自分がプログラマとしてどうありたいかなど改めて考えさせられます。