2012年9月26日水曜日

『デザインの生態学 –新しいデザインの教科書』後藤武 佐々木正人 深澤直人

『デザインの生態学 –新しいデザインの教科書』後藤武 佐々木正人 深澤直人
(レビュアー:マーケター/デザイナー 酒井)

クリエイティブには日々移り変わる “流行り/廃りのレイヤー”と、100年単位で変わらない“思想のレイヤー”があります。
ウェブデザインで言うと、ここ最近は“Pinterest的”な微妙なグレーの明度差・シャドー・グリッドレイアウトで情報のグルーピングを見せるデザインが流行っていますが、あまりにも流行っているので3年後に同様のデザインを見たら「古い」と感じるかもしれません。
反面で“その時々のユーザーの慣習(世の中に普及しているインターフェイスの標準)を考慮する”という根本的な考え方は普遍的なものであるため、3年後も間違いなく通用します。
本書はデザイナーやエンジニアやマーケターに関わらず“思想のレイヤー”での成長を望むすべてのクリエイターにおすすめする一冊です。

“まったく異なるデザイン分野”の第一線に立つ3人の対談が、とても魅力的なコンテンツになっています。
著者のプロフィールを簡単にまとめると、下記のようになります。

・『石の美術館』『空の洞窟』など洗練された建築物を次々と生み出している建築家の後藤武
・認知科学の第一人者であり東京大学大学院教授を務める佐々木正人
・『無印良品』『±0』といった一流ブランドのデザインを手がけるプロダクトデザイナーの深澤直人

分野が違っていても、デザインのことを考え続けた3人の考え方には相通ずるものがあり、対談を通して相互に共感を生みながら『デザイン』を深く掘り下げていきます。

例えばデザインでは「はまる」感覚が大切だという点で3人の意見は一致します。
バス停のすぐ近くに背の低いフェンスがあるとします。そのフェンスの中央部分が弓なりにへこんでいます。この構図を見ただけで、たくさんのバスを待つ乗客がそのフェンスをベンチのようにして腰掛けてきた様子が目に浮かんできます。
こういった「はまる」感覚がデザインには求められます。
2000年に無印良品が発売して当時デザイン界で話題となった「壁掛け式CDプレーヤー(http://www.muji.net/lab/mujiarchive/101111.html)」は換気扇のようなフォルムをしています。「ひもを引っ張れば動作する」ことが自明なだけではなく、ユーザーはほとんど無意識のレベルでその動作を誘引されます。これがデザインにおける「はまる」感覚の再現です。

副題に「新しいデザインの教科書」とありますが、上記の一例からも分かる通り、一般的なノウハウ本のように“明日から取り入れられるような手法”が散りばめられているわけではありません。
純文学を読むときのように、読み手は洗練された概念を何となくインプットしていきます。
何となくインプットした概念が、その成分や正体がよく分からないまま、砂糖が水に撹拌するときのように、目に見えないかたちで読み手に浸透します。

冒頭に記した通り、日進月歩のクリエイティブを学ぶことも大切ですが、そんな合間に本書を手に取って、100年先も通用する“思想のレイヤー”を育んでみてはいかがでしょうか。

2012年9月12日水曜日

『Clean Coder』Robert C. Martin

『Clean Coder』Robert C. Martin (著), 角征典 (翻訳)
(レビュアー:エンジニア 久保田)
「プロフェッショナルプログラマへの道」とサブタイトルにもある通り、
この本はプロになるための意識や心構え、習慣を教えてくれます。

第1章ではプログラマの「責任」について記述されています。
顧客や上司、仕様がどうであれ、
書かれたコードの責任はその直接の書き手にあります。
この責任を全うするにはどうしたら良いでしょう。
本書では残りの章を通してその指針を示してくれます。

特に第6章「練習」ではソフトウェア開発にも練習があるのか
と衝撃を受けると共に深く納得させられる内容でした。
僕ら開発者は仕事中が本番で、本番でうまくやるには
当然練習が必要なんだなと。

その他にも、わずか200ページ足らずの本書には
プロになるためのエッセンスが凝縮されています。
開発者には必読の書ではないでしょうか。